01話 INTER MISSION:英雄達と交信と


新人と教官がことごとく撃墜された悪夢のような事件から数時間後。
暗鬱のデブリーフィングの後、ブレイズことレグナブール・レイジ・ゼルベルガーは、その後誰とも会話せずに自室へ戻った。
そして、ベッドの下に置いてあるノートPCを立ち上げる。
パスを入れ、誰も触っていない事を確認し、ファイルを開いてネット接続をする。
メールが、二通。
顔をしかめ、それを開ける。
自動的に暗号解読され、文字が展開される。
まずは一通目。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
―少年へ―
お久しぶり。
サンド島は大変な事になってるようね。
質問内容の一番に書かれている国籍不明機の事だけど。
私からの答えは、こちら側からは不明、ね。
情報が全然こっちにも無いの。
ただ…最近になって、ニカノール首相から遠ざけられた、もしくは退役した軍人を街で見かけたという情報が入ってきていたり、軍部に戻ってきているらしいけど。何か、嫌な予感がする。
ま、予感が外れて、実はこっちに罪を着せようとしている第三国の仕業とかだったら、私の部隊で即座に叩きに行きたいわね。
でも、多分こちら側の仕業なのかもしれない、そんな予感があるの。
どちらにせよ、恐らくもう止められない確信があるけど、こちらでも何とかしてみるつもりよ。
今は亡き、黄色の誇りにかけても。

PS.ベイカーの事は非常に残念だったわ。これで『黄色の中の黄色』も殆どが居なくなってしまったわけね。

―伝説へ―
貴方の国で不穏な空気が流れているようね。
非公式のルートだけど貴方が襲撃されたという情報が上がってきているの。
戦時並に注意しておいた方が良いかも知れない。
私も出切れば支援したいけど、こちら側も大変だから多分無理ね。
また連絡するわ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「イザナギさんが、襲撃された?」
そう呟き、急いで次のメールを見てみる。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
―少年へ―
少年、君からメールを受け取った時、懐かしさが胸に込み上げてきたよ。
ベルカに居た時に君のご両親の家で遊んだ記憶は未だ色褪せていない。
でも、君や彼女が送ってきた内容でそんな感慨は全て吹き飛んでしまった。
オーシアの海を越えて現れた国籍不明機。
気になるね。
ただ、海を越えてあるのは15年来の友好国のユークトバニアだろう?
襲撃する理由が無いのが気になる。
確か当選したニカノール首相は、融和主義で、軍事縮小派のはずだ。
でも、交戦派を無理矢理抑え込んでの当選だと聞いたから、軍部の暴走、という線もあることはある。
…英雄の目を掻い潜ってそんなマネが出切るとは思えないけど、ね。

Ps.そういえば、君の両親はまだ健在なのかな?君のご両親の得意料理、今度教えてもらいたいんだ。
   あれは今思い出しても絶品だったと断言できるからね。

―英雄へ―
流石に早いな。
今までの損害はレガシィ一台と、F/A−22のキャノピーさ。幸いにも死傷者は0。
爆殺と狙撃とは随分思い切ったテロだと思ったよ。
ただ、犯人像がまるで見えてこないのが不気味なんだ。
軍事政権を目論んでいたエルジアは解体され、民衆は望んでいなかった軍国主義から開放されたから、問題は無いはずだし、他国としてもそれこそ動機がまるで無い。
更に不気味なのは、狙撃、爆殺共に大掛かりな犯行なのに、何もかも不透明なんだ。
諜報部が何も検討がついていない状態なんて初めて見たよ。
今、軍事派と愉快犯の犯行の線で洗っているが、どうやらこの線はハズレの予感がする。
いずれにせよ、君の忠告はありがたく受け取っておくよ。
またすぐ近い内に連絡する。

Ps.フランカーシリーズの性能に頼る癖は無くなったかい?
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「そっか…知らなかったのか…」
そう、呟いて返信を打ち始めた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
―英雄へ―
両親はあなたが帰国してすぐに起きた15年前のベルカ戦役の時にユーシアからの奇襲絨毯爆撃で瓦礫と共に埋まりました。
俺が父から頼まれて家の地下のワインセラーからワインを取りに行った時に、脈絡も無く起こった爆撃で。
俺はその偶然、本当に偶然のおかげで生き残りました。
ただ、一言だけ。
気にしないで下さい。
気にするのなら、いつか両親の墓参りに来てくれませんか?親爺もお袋も喜ぶと思うので。
あと、あの料理なら俺でも作れますよ。
あの味の領域に辿り付くにはまだまだ修業と回数が足りてませんが。

―二人へ―
サンド島は、平時から戦時態勢へと移行しました。
ただ、先の戦闘で主だったパイロットと新人は殆ど死亡し、残った俺達で何とかするしかないようです。
メンバーはバートレット大尉と、天才と称されているケイ・ナガセ少尉、お喋り小僧のアルヴィン・H・ダヴェンポート少尉に俺です。 俺はどうやら四番機になりそうですが。
あと、二人から貰った戦闘機動の教本と映像、確かに役立ててます。
二人の機動には今は絶対に追いつけないですが、5年と言わず、あと3年で必ず追いついてみせます。
もし…
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

そこで一瞬躊躇し、だが、レイジはキーボードを叩いた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

もしも。

俺が二人の居る領域に追いつけたら、俺も欠片を手にする事が出来ますか?

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


送信をクリックし、溜息をつく。
おそらく、イザナギさんはかなり気に病むだろう、と。
彼が両親と共にうちに遊びに来たのはベルカ戦役が起きる丁度15年と半年前。
両親同士が大学の同期だった事と、子供が―レイジの事だ―成長したから遊びに来い、という父の勧めで、彼らの家族が来た。
その時の印象は幼かったあの頃から今でもまったく変わっていない。
穏やかで物静かな人だった。
あの時はまだ、互いに空を目指していなかったと思う。
いつからだろう、彼が空を目指し始めたのは。
俺は15年前のあの時―

ピピピピピ

…就寝時間か。
自分で設定した就寝時間を知らせるアラームが鳴り、思考を睡眠用に切り替える。
明かりを全て消し、布団に入ると、すぐに眠気が襲ってきた。
眠る前に、呟いた。
「いつか必ず…この手に…」

―ソラノカケラヲ…

>NEXT


BACK