♯お正月になりました。♯


 さて、何はともあれ新年である。
しかし、年が変わったからと言って周りの状況に目立った変化があるわけではない。
毎日暇を持て余して寝て過ごす者、バイト三昧で過ごす者、宿題、レポートに追われる者、と、様々である。

 そしていつもの二人、マナとヘルも普段と変わらぬ暮らしをしている・・・と思いきや、あわただしくアパートから飛び出した。
 「もー、せっかく大家さんに朝から初詣に連れて行ってもらって、今日はゆっくり過ごせると思ったのにー」
 「まぁそう言うな。大家の言う事ももっともだ。マナだって別に嫌じゃないだろう?」
 「う・・・そりゃ、義父さんにしばらく会ってないけど大丈夫かなー、とは思うよ。でもわざわざ年始の挨拶しに行くだけっていうのも、ねぇ・・・」

そう。彼女らは、この元旦の日に大家と一緒に初詣に行った後、その大家に『義父さんにも挨拶をしてきなさい』と言われたのであった。
 「君だって大家に『ひょっとしたらお年玉もらえるかもよ』って言われたら尻尾ついてたら振ってそうな勢いで承諾したくせに何言ってんだか」
 「むむむ・・・言い返せない」
お年玉に釣られる辺り、まだまだお子様である。

 「全く欲深いね。大家からも貰ったくせに」
人間ならため息をつくような仕草をしながら言うヘル。
だがそう言うヘルもしっかりと貰っていることを忘れてはならない。
 「い、いいもん! その代わり私ちゃんと毎日家事こなしてるもん!」
 「俺だって子守り頑張ってるぞ」
 「誰の子守りよ?」
 「君以外に誰がいるよ?」
 「誰が子どもだっ!」
相変わらず掛け合い漫才・・・いや、騒がしい二人である。
と、そういう風に義父の家に行くので、当然ながら家に入る前に義父に出迎えられてしまった。
なにやってんだか。

 「あー、まぁとりあえず・・・明けましておめでとさん」
 「あ、お、おめでと・・・」
 「おめでとうさん」
あろうことかおめでとうの言葉さえ義父に先に言われてしまった。さぁ困った。先に向こうに切り出されては何を言うかも思いつかない。
 「今日は一体どういう風の吹き回しだ? 今までほとんど顔出さなかったのに」
 「いやまぁ大家がな、挨拶ぐらいしに行けって言ってさ。それで来た。な、マナ」
 「あ、うん!」
 「そか。じゃぁ仕方ない。今日ぐらいはゆっくりしていけ」
 「おう」
 「うん」

 こうして見ると、結構状況は微妙である。
家出中の女の子が年越しの挨拶をしにわざわざ家に帰ってきて、しかも本格的に帰るつもりは無い。
一方家出された本人も全く気にせず普段どおりの扱い。
 な ん だ こ の 家 族 は 。

 だがまぁこれも、家族を表現する一つの形なのかもしれない。
いつでも暖かく、拒むことなく迎えてくれる。それが家族だと言うならば、この三人はまさしくそれを体現していることだろう。

 その日一日、マナとヘルは義父とゆっくり過ごした。
特に何かをしたわけではない。楽しそうに今の生活を語るマナに適当に義父が相槌を打っていたり、三人でボーっとテレビを見たり、
ヘルと義父が酒を飲み交わしたり・・・。
案の定、先に潰れたのは義父なのだが。


 さて次の朝・・・。
 「へ? 義父さんがお家まで送ってくれるの!?」
 「・・・待て、何故にそこまで驚く」
 「いやだって、義父さんがそんな気をまわすなんて珍しいから、ついうっかり・・・」
 「うわー、何気にけなされちゃってますかオレ」
 「義父さん・・・」
 「ん?」
 「・・・ありがと。嬉しいよ」
 「・・・おう」

 帰り道。三人とも無言で、アパートへ向かう。
 「・・・・・・」
 「・・・・・・」
 「・・・・・・」
無言の理由は三者三様。
言うことが思いつかなかったり、誰かが話したら自分も話そうと思っていたり、誰も話さないので何も言えなかったり。
そんなこんなでもう家の近くまで来た。
あんまり近づいて大家に会うのは嫌だと義父がごねるので、マナは仕方なく、義父と繋いでいた手を離した。
 「どうした? もう会えないってわけじゃないんだから、もうちょっと笑顔で見送ったらどうだ」
 「・・・そうだね。じゃ、義父さん、送ってくれてありがと。それで、ちゃんと言えなかったけど、明けましておめでとう。今年も、よろしくね?」
笑顔を浮かべて言うマナ。しかし、少しの寂しさが、顔には浮かんでいる。
ヘルと二人で暮らせているとはいえ、やはり子どもなのだろう。
親のぬくもりから離れることが、寂しいらしい。
 「おう。じゃな」
マナの言葉に短くそれだけ告げ、義父はすぐに去ってゆく。

 交わす言葉は少なかったかもしれない。
あまり面と向かって話していなかったかもしれない。
だがそれでも、心は通じ合っていると信じたい。
なぜなら、たとえ事情はどうあれ、彼らは立派な家族なのだから・・・。





筆者談

お久しぶりでス。月影で御座います。
何はともあれ、明けましておめでとうございます。
皆様どんなお年をお過ごしでしょうか?
楽しく過ごせているなら幸いです。
今回は約一時間でこれを書いたのですが・・・。よく見てみると飛ばし気味ですね。
どうかそこら辺はカンベンしてくださいませ(汗
はてさて。
話がクサ気味なのはいつものことです。どう頑張っても、私は結局ハッピーエンドが大好きのようで・・・。
では、話すこともとくに思いつかないので、今回はこの辺で。
さよ〜なら〜。


BACK