その日彼女は、自分の首に包丁を当てた。

その包丁は横に引かれ、彼女の首は切り裂かれ床に落ちた。

だが、その次の瞬間、彼女はため息をついていた。

「やっぱり、死ねるわけ無いか」



鋼の翼 異聞 二人の出会い



改造人間である自分は、強い力を一点に叩き付けるようなものでなければ。

もしくは強い呪いのようなもので無くては。

死ぬ事も出来ない。

愛する人のいなくなったこの世界で、あと何年を私は、生きなくては行けないのか。

彼女は今日もまた何度目かの溜め息をついた。

「誰か、私をころして?」と。

しかし、その日はいつも泣いているだけの彼女の日常に変化が起きた。

ドカンという大きな音と共に何かが庭に落ちて来た。

あそこは?

彼の造った畑の跡に、足が二本生えていた。

彼女は、顔色も変えずにその足を掴むと軽々と持ち上げた。

 「う〜ん」その足の持ち主はうめき声を上げて目を覚ました。

『………この子?』彼女はその顔に見覚えがあった。

シュタ!

そして、もう一つ、見覚えのある顔が舞い降りた。

 『ヘル、ヘルロール?』

 愛する人の………。

 愛するあの人の造った?

「すいません、すいません、すいません、この弾丸家出娘がとんだ迷惑をかけて」

 ペコペコと頭を下げるヘルロール。

その時私が抱えていた少女から音がした。

 グ〜〜〜

「ふ」

「ふふふっ」

久し振りに。

本当に久し振りに私は。

 微笑んだ。

「あう〜」

 顔を赤くする少女の頭を私は撫でた。
 
 「き、気持ち良いけど…恥ずかしいよう(〃д〃)」

 「あ………私、私マナっていいます、養父と喧嘩して家出して………お腹が空いて、落ちて来ちゃいました、ゴメンなさい」

「そう」

 私は微笑む。

 あなた、名前を貰えたのね。

「あの………良かったら、少し置いてくれないかな?」

 「ちょっ?何いきなり図々しい事をいってんの?」
 
 ヘルちゃんのあわて方がかわいいと、私は思った。

 私はくしゃりとマナちゃんの、あの人と関わりのある、この二人の頭を撫でて。

マナちゃんをリビングに招き、包丁で久し振りに食事を作る。

さっきまで自分を殺すつもりだった包丁で、あの人に料理を作るつもりだった包丁で、私は今、新しく。

マナの為に、料理を作り始めた。

                 鋼の翼 異聞 二人の出会い 終


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