ある日の夕方。
包丁がまな板を軽快に叩く音とその音を奏でる少女の鼻歌が、
漂ってくる芳しい香りとあいまって実に食欲をそそる。
少女の背中から生える鋭角な羽根を気にする家人などここにはいない。
「ありがーとーおーゆめのーかけーらー」
……料理中にはあまり適さないであろうマニアックな鼻歌の内容を気にする家人もいない。

その少女に料理を任せてくつろいでいるのは、2人の男。
いや、正確には1人の青年と1体のロボットだ。
「なあ、ヘル。仮面割れも燃えるけど、
自律型ロボットの機能停止から誰かの涙による復活も燃えるよな。
超竜神とマモルみたいに」
「はいはい、そーですねー」
ヘル、と呼ばれたのはロボットの方。
手元の本に目をやりながら青年の呼びかけに適当な返答をする。
ちなみにその本の表紙には勇者王とか何とか書いてあるのだがツッコミどころではないだろう。
「と言うことで実際にやってみよう」
嬉々として提案する青年に対し、ヘルは呆れた顔で本を閉じる。
「何がと言うことでなのかわからんし、オレは機能停止したくないし、そもそも泣く奴がいないだろう。
大家はもう少し考えてから物を言った方がいいぞ」
「少しぐらいいいじゃん。すぐ直るだろ?」
大家と呼ばれた青年―――単なる呼称ではなく実際にここの大家なのだが―――はしつこく食い下がる。
「だーかーらー!オレが止まって誰が泣くんだよ!?」
機能停止しろというある意味すごくひどいことを言われ続けたヘルがついにキレた。
まあ、人間なら1回死んでくれということになるのだから当然か。
「そりゃあそんな事態になったらマナは泣くだろ?俺だって悲しいし」
マナというのは台所に立っている少女で、一応ヘルのパートナーだ。
「いーや、アイツはそんなタマじゃないね。
つーか、オレが機能停止するとしたら原因はアイツ以外考えられなだぶっ!?」
勢いよく反論したヘルの頭部が、一瞬にして大家の視界から消えた。胴体を残したまま。
その直前に何かが鼻先をかすめていった気もするが、大家の動体視力では捉えきれなかった。
ヘルの頭部を吹き飛ばし、壁に突き立ったソレは鈍い金属光沢を放っている。
マナの必殺武器、パイルバンカー『マグナ=インパクト』。
用途は主に、ヘルの頭を飛ばすこと。
「……な?」
わかっただろ?とヘルが問う。
「は……はは……」
割と命の危機を感じた大家の口からは、乾いた笑い。
いつもなら大爆笑してやるところだが、今回は洒落にならないくらい危なかった。
「はーるかひーのーひーかりーさーがせー」
和やかな風景を一気に地獄に変えた少女はさほど変わらない姿勢で仕事をこなす。
その背中に燃え上がる何かは常人であるはずの大家にもはっきりと見えた。
後に大家が語ったところによると、『鬼神のオーラってヘルが言ってた意味がわかった』らしい。
ちなみに、いつの間にか変わった鼻歌。タイトルは……“鎮-requiem-”



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#あとがきのような何か

#えー、一応ヘル支援のはずです。
#そういう奴らだよなー、と笑って流してくれれば光栄です。
#あ、マナはそんな凶暴じゃないですよ?
#今回はちょっと出番がなくて一部分が誇張されただけって何でここにいるんですかマナさn(マグナ=インパクト

# by蒼流


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