某日、某所。

 見るからに怪しい服装の男が、何かの薬をまきながらブツブツと呟いている。


{お前達、痛いだろう?苦しいだろう?恨んでいるのだろう?・・・・・・・・・・・・・・・人間どもを?}
 
{なればこそ、俺が与えてやる、この薬で。}

{自分たちを苦しめたモノに復習するのだ!}

そんな、怪しい男の呟いた次の日の夕方。



「ふん♪ふん♪ふん♪」
 
ヘル(荷物持ち)と二人で買い物に出かけたマナ。
  
家では掃除をしながら、大家のお姉さんが2人の帰りを待っている。

「卵にお豆腐♪ゴーヤに、豚肉、海水♪」(海水?)

空の両腕をぶんぶんと振り回しながら歩いているマナ、その様子はまるで小学生のそれ。
 
『マナの奴、お姉さんに懐いてからずいぶん幼くなってないか?』一人ごちるヘル。




不意に聞こえたギャオーというべたべたな声に目を向けて、ヘルが思わず荷物を落とす。

パシッ!
 
荷物をキャッチするマナ。
 
「もー、あっぶないなぁ、卵全部割れ(ギャオー)って、何アレ!」

今度こそ割れる卵と豆腐。

  

「なんだか、犬と猫の合わさったようなデザインだな・・・」とヘル。
 
「それに、バーム星人の羽みたいのがくっついて・・・」

何でそんな古いの知ってるのさマナ。

『あれって確か天使の羽みたいな・・・って、やばい!マナ!』

ヘルがあわてて、マナを振り返り。

『ちいっ、もうあのモードにっ・・・』



マナの目が赤く光っていた、マナの顔から表情が無くなっていた、羽も大きく鋭くなっていた。

「P・T・A 発・動  斬る・刺す・抉る・破壊・する」
 
Project  Terminate  Angel   天使抹殺計画 


天羅のマッドサイエンティストたちが計画した、最低最悪の計画。

「未だ囚われているのか、マナ」


マナが、飛ぼうとする。


慌てて抑えに行くヘル。


「やめろマナ、もうお前があのモードで戦う必要はないんだ、大家のためにもな!」

自分が傷つく事も構わずに、邪魔なものをすべて破壊しても目的を達成する為の、悪魔のようなプログラム。

そのプログラムは、ヘルのことをも邪魔と判断した! 
 
 
本気のインパクトがヘル目掛けて放たれる。

後ろに転がって避けるヘル。
 
避けきったと思い、立ち上がろうとして、自分の足が無い事に気が付く。

「んなっぁ?」

いつの間に?
 
スローで今のパンチを再生する。


「こ、こんなものまで装備してやがったのか?」


インビジブルガトリング。

 
囮のインパクトとの反対の腕で1秒に20回の高速パンチを繰り出す。

「あいつら、何を考えていやがる!」
 
無論、この設計をした科学者はマナ自身のダメージなど気にしてはいない。

最悪、関節が壊れれば交換すればそれでよいと思っていたのである。 
  
 
ヘルの脇を通りすぎるマナ、その眼は天使の羽を持つ怪獣にのみ向けられ、ヘルを気にする素振りもない。

マナが飛ぶ、怪獣に向かって、一直線に。


 
その少し前。


大家のお姉さんは、嫌な予感がして庭に出た。

庭に出た彼女の鼻に、自分のよく知っている匂いが漂ってきて、驚き、深く悲しんだ。

「この匂い・・・一体誰がこんな?」

 
そっと見上げた夕焼け空に、怪獣の姿が現れた。

逃げ出す人の波に逆らって、彼女はゆっくりと歩き始めた。

怪獣を止める為に。




 
ヘルは見た。

怪獣の元に向かうマナを、そしてその先にいる彼女の姿を。

「マナ?大家の事が見えているか?」

もし、マナが大家のことを認識していなかったら?

もし、プログラムが大家を邪魔だと認識してたら?
  
もし、あの怪獣にマナが勝ったとしてもその後に残されるものは?
    
「間に合うか、嫌、間に合わせるんだ、あいつに、大家はやらせないっ!」

 

大家は、後ろから高速で近よってくるものが、マナだと気が付いた。

さらに、マナの様子が変わっている事にも気が付いた。

「マナ?御免ね、PTAが発動しちゃったのね」

 
何故、彼女がその言葉を知っているのか?

彼女は高速移動するマナを捕まえた、どうやって?彼女は人間なのか?


「ん…む…ちゅぷっ、…はああんっ」
 
ものすごく妖しい声が聞こえる。

ぺろっ…くちゅうっ!

「や、やぁ…んっ、お姉ちゃ…だめへぇ」

 
えええええっ?

彼女はマナを捕まえて、ディープキスしていた。


腰砕けになって動けなくなるマナ。

「お姉さまぁ…もっとぉ」
 
彼女はマナのことをきゅっと抱きしめて囁いた。

「マナちゃん、愛してた…さよなら」

 
さよなら?
  
彼女は自分の腕からマナを開放すると怪獣に向かい歩き始めた。

「さあ、みんな今開放してあげる…」

「君達の怨みも、呪いも、痛みも、悲しみも、人の罪もみんな私が引き受けてあげる…」

「恨みを晴らさなければ、君達はけして開放されないと知っているから…」

「私が、死んであげる」


嫌〜っ!


その言葉を聴いて、叫ぼうとするマナ、しかしマナは動く事も話す事も出来ない。

その言葉を聴いて、飛ぼうとするヘル、しかしヘルも動く事も話す事も出来ない。   

 
 
マナは泣いた「お姉さんを助けるためなら、羽だって、命だって差し出すから、お願い!誰か力を貸してよ!」 
 
へルは望んだ「ナノ=システム最大稼動!もう2度と戦えなくなっても良い!今、大家達を助けられるなら!」
  
彼女は、皆の為に、彼らの為に、2人のために自分の命を差し出した。



少女の涙  漢の望み  乙女の生命が揃ったとき…彼女の体が赤い光に包まれた!


???は彼女に尋ねた、貴方は何を望むのですか?と。

敵を倒せる修羅の力?
 
彼女は首を横に振った。

人を守る羅刹の力は?

彼女は、やはり断った。

   
…それでは、貴方はいったい何を望むのですか?と???が尋ね。



私の欲しいのは、総て救える力。

   
赤い光が一際大きくなって、収束した後に残されたのは。



マナが呟く「光の…巨人?」

 
新しい、ウルトラマン。
 
ウルトラマンレディが誕生した!



レディは怪獣に近寄って、その頭を撫でた。
 
撫でられたところから出てくる、子犬や子猫たちの魂。

レディが撫でるたびに、子猫や子犬が成仏するたびに、怪獣が、そしてレディが小さくなっていく。 
 
 
「お姉さん…やっぱりお姉さんは戦わないんだね」満面の笑みを浮かべるマナ。

その横で、感動して泣いているヘルが居た。

 
 

そして、怪しい男が逃げようとしていた。

「くそっ!作戦失敗か?!」

ポケットから何かのスイッチを取り出す男。

「怪獣はいなくなるわ!P.T.A機能は解除されるわ!一体何者だあの女?」

「これで、バーサークモードにして、暴れてる間に逃げちまおう」

スイッチをマナに向ける男。


いつの間にか、怪獣になった犬・猫達を成仏させていたお姉さんが後ろに回りこんでいて、装置を握りつぶした。

「ふん…何しろあの薬は、もともと私の夫が考えた物だからね…」  

「だから、あの人の研究を悪用する人に、容赦はしない」

「ま、まさかあんた主任の奥さんか?」怪しい男がうろたえていた

「と、言うわけでマナ、この人が怪獣を作り出し、貴方を自由に操ろうとした極悪人」
 
「と、いつの間にか近寄ってきていたマナに言う。

「お仕置きは、マナにお任せね♪…あ、ころしちゃ駄目よ?」

「お姉さんがいうから、殺したりしないけど、相応の報い、受けてもらうからねっ」

マナの手が、男の体(の一部)を握る。

 
「私を自由にして良いのはお姉さんだけだ〜」
 
「おいおいおいおいおい、なんか、とんでもない事いってるな?」
 
ヘルの突込みが入る。

「私のこの手が以下略っ!聴け〜地獄の響きを〜っ!」ぐしゃあ。

イメージ映像(※梅干の種が二つ、地面に落ちる) 


ヘルが思わず((((;゜Д゜)))ガクガクブルブル。

 
 
その夜、さあ、晩御飯が出来たわよという、彼女の声に誘われて食卓に来た二人の目の前には…。

味噌汁、ご飯、ゴーヤチャンプルー。

そして謎の…
 
「あの、大家…この意味ありげに2個しかない、小さくて丸いフライは何?」と、判っていながらヘルが聴く。

そのとき彼女は微笑んで「美味しいわよ」とだけ言ったらしい。
 

メデタシメデタシ(注、一部めでたくありません)


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