father side V 「そのままで」


夢というのは外的要因によって、ある程度見る夢のパターンが決まるそうだ。
だから目覚める直前にオレが大地震によって地割れに飲まれたのもきっと、その外的要因によるものだろう。

「んあ・・・」

目を開けるとそこは地割れの中ではなく、家のリビングだった。
しまった、どうやら昨日あのまま寝ちまったらしい。
にしてもおかしい。
夢から覚めたはずなのに世界がまだ揺れ続けている。
それもそのはず、みさきが無言でオレの肩を揺さぶり続けているからだ。
「おい、もう起きたぞ」
「うん、知ってる」
そう言ってみさきはさっさとキッチンに戻っていく。
まずい。何故かは知らんが少し機嫌が悪い。しかもオレに対して怒ってるっぽい。
とりあえず特大の溜息を一つ。
そしてソファから立ち上がり、後を追ってキッチンに向かう。

どうやら朝飯の支度はすでに終わっているようだ。
皿をテーブルに運ぶのを手伝いながら原因を探ってみる。
「なぁ、昨夜ソファで寝ちまった事で怒ってんのか?」
「別に、そういうわけじゃないよ」
「じゃあ何でそんなに機嫌悪いんだよ、オレ何かしたか?」
早くもお手上げだ。全く見当が付かない。
人にもよく言われるが、これでも自分で自分の鈍感さは承知しているつもりだ。
そんなオレが考えたところで原因が分かるとも思えない。
大人しく相手の返答を待っていると、叫ぶようにしてみさきは答えた。
「あたしが怒ってるのはおとーさんのせいだけど、別におとーさんが悪いわけじゃないの!
 あたしはあたしの中の凄く暗いところに怒ってるだけ!
 おとーさんは悪くないのに、おとーさんに当たったりして、そういうあたしに怒ってるだけなの!」
堰を切ったようにそれだけ言うと、またみさきは黙り込んだ。
なんてこった。答えを言われてもまだ原因がよく分からない。
どうもオレの鈍感さは筋金入りらしい。

けど、筋金入りに鈍いオレでも一つだけ言ってやれる言葉があった。
「なぁ、人間なら誰だって暗いトコや嫌なトコがあるだろうし、
 誰だって自分のそんなトコは好きじゃないはずだ」
そこまで言ってみさきの頭に手をのせる。
「お前が自分のどんな部分を見ちまったのかは分からないけど、
 少なくともオレはそのお前が嫌ってる部分でお前を嫌ったりなんかはしない。
 その部分を含んでお前なんだからな」
我ながらこっ恥ずかしい事を言ってるとは思うが、これが本心である事も事実だ。
「だからお前もそんなに自分を嫌ってやるな、お前と一番付き合いが長いのは他の誰でもないお前だろう」
しばらくは黙って考え込むような顔をしていたが
「・・・うん、そうだね。ありがと、おとーさん」
そう言ってみさきは少し笑った。
何故か急に恥ずかしくなって、照れ隠しと返事の代わりに、手を置いた頭をくしゃくしゃと掻き回す。

2階の方からはどたばたと騒ぐ音が聞こえてくる。
そろそろ他のガキ共も降りてくるんだろう。

どうやら今日も美味い朝飯にありつく事ができそうだ。


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