○月×日

彼らは兵器だ。
何かを破壊し、誰かを殺す目的で造られている。
そしてその事を生まれた時から自覚している。
そう認識するようにプログラムされているのだから。
そんな彼らに自我というものを持たせる為の作業をしている。
それも、より効率的に戦闘を行わせるという目的で。

私は、何と残酷な事をしているのだろうか。


○月△日

今日、指揮官機であり、他の量産機のプロトタイプになる機体がロールアウトした。
彼は基礎プログラムこそ積んでいるものの、応用的な事はロールアウト後に学習し、
自らプログラムにフィードバックさせるシステムになっている。
机上の空論よりも実戦経験を重視した方がより高い戦果を期待できるという判断からだ。

そして、その学習担当に私が指名された。
開発主任という立場なのだから、当たり前といえばそうなのだが。
そして上から下された命令はただ一つ。

より戦闘能力の高い兵器を・・・。


○月□日

今日はAAMW-00LNと初めてコミュニケートをとってみた。
まだ電脳のほとんどが白紙なだけあって、とても純粋で、何にでも好奇心を持っていた。
本当に良い子だ。

しかし、私の仕事は彼を最高の兵器へと育てる事なのだ。


○月××日

AAMW-00LNの実戦装備の運用テストが行われた。
どの数値もが期待以上の成果を示している。
我々開発者ですら恐怖を覚えたくらいだ。

しかし、彼が引き金を引くのを一瞬躊躇してるように見えたのは、私の錯覚だろうか。


△月○日

前回の運用試験の後、AAMW-00LNを『地獄の咆吼』だの、『ヘル=ローリング』だのと呼ぶ者が出てきた。
彼は気にしないどころか、名前ができたと喜んでさえいる。
意味を分かっているのかどうか、怪しいところだ。
まぁ、ずっと型式番号で呼ぶのも何なので、私もこれからは彼を『ヘル』と呼ぶ事にしよう。


△月△日

ヘルにもうすぐ彼の量産機がロールアウトされると教えると、
兄弟ができると随分はしゃいでいた。

彼の使命は、その兄弟達を率いて死地に赴く事だというのに。


△月○○日

今日はヘルと量産型達のリンク=システムのテストが行われた。
ヘルは最初こそ戸惑っていたが、すぐにシステムに順応した。
感覚的には自分の身体を一度に数十体も動かすようなものに、あの順応速度。
おかしい。私の組んだプログラムではあの速度で対応できるものではないのに。
何かが、おかしい。


△月○△日

前回の試験についてヘルに質問をしてみた。
彼曰く、みんなが協力してくれたから上手くできたそうだ。

モビルウェポン同士が自発的に協力をする。
そんな事が起こりえるのだろうか。
少なくとも私が行ったシミュレーション上ではそんな事はありえなかったはずだ。
だが、結果的にプラスにはなっている。
もう少し、このまま様子をみる事にしよう。


□月○日

ヘルの増加装甲でもあるAAMW-02Sが最終調整に入ったと連絡を受けた。
リンクしやすいようにヘルのAIをベースにしてはいるが。

この計画、僅かにだが私の予想とズレが生じている気がする。
無事に進めば良いのだが。


□月△日

今日はAAMW-02Sの起動実験に立ち会った。
担当チームの者達はウォールというコードネームで彼を呼んでいた。
その装甲に対する絶対的な自信の表れなのだろうか。

しかし、開発者の私が言うのも何だが、随分と固い反応をする子だ。
本当にあのヘルのAIをベースにしているのか疑いたくなる。

いや、ヘルの脳天気さがAIとしてはイレギュラーなのか。


□月□日

廊下でバイオウェポンチームの開発主任とすれ違った。
彼曰く、私達のAAMWシリーズなど彼らのコアドールに比べればオモチャなのだそうだ。
兵器の能力比べになど興味は無いが、彼のあの目。
じっとりと狂気じみていて、気分が悪くなる。
何か、良くない事でも考えてなければいいが。


□月×日

バイオウェポンチームの知り合いを通して、コアドールのスペックカタログを見る事ができた。

彼らは、何と酷い事を考えているのだろうか。

いや、私たちも、何も彼らと違いはしない。


□月○○日

今日はヘルとウォールの合体プロセスのテストが行われた。
各部の数値に若干の微調整の余地はあったが、結果は上々だ。

システム=マグナ=インパクトの中核を成すコアドール。
それが万が一にも敗北した場合における保険として用意してあるだけに、上々でなければ困るのだが。


□月○△日

この前の試験で目にした、ヘルとウォールの力。
未だに資料上でしか知らないが、コアドールの力。

私は、取り返しのつかない過ちを犯しているのではないだろうか。


□月○□日

力を持たない我々は、力を持つ天使を恐れ、彼らの様な力を生み出した。
その生み出した力を、私は恐れている。
ならば、天使達は己の力をどう見ているのだろう。
同じように自らの力を恐れているのだろうか。


□月○×日

何も、分からない。


□月△○日

組織の監視システムにハッキングし、一人で下界に降りてみた。
私たちと同じように、自身には爪も牙も持たず、科学という力を持つ人間を近くで見てみたかったからだ。

データベースで見る限り、人間の世界はとても平和とは思えなかったが、
そこに暮らす人々は平和そのものに見える。

いや、ただ恐怖に疎いだけなのかも知れない。


□月△△日

今日は、一人の人間の女性と話をした。
両親が不幸に遭われて、もう生きる気力がないと言っていた。
「ならば、まずは自分のために自由に生きてみるといい。
 まずは生きるんだ。考えるのはその次でいい」
自分の口から、自然とそんな言葉が出ていた。

それは、誰の為の言葉だったのだろう。


□月△□月

この前の人間の女性と、また出会った。
彼女は、考える為の材料として、自由に世界を見て回りたいと言っていた。
面倒だから、生きるのも自由なのも考えるのも一緒くたにしてしまったと笑っていた。
強い人だ。

我々は、このような強さを持ち得ていただろうか。
その強さから目を背け、逃げた結果の力が、あの計画なのではないだろうか。


□月△×日

再び、天界へと戻った。
監視システムを一通りチェックする。
下界への干渉は記録されていない。

あとは、あの滅ぼす為だけの計画を何とかしなければならない。
考えるのは、その次でいいのだから。


×月○日

ヘルとウォールに、彼らの力の使い道は彼らに任せると伝えた。
下手に話すよりも、彼らの心を信じてみたかった。


×月○△日

コアドールが目覚めてしまったらしい。
予想よりも大分早い。このままでは天羅の暴走が始まってしまうだろう。

もはやヘルとウォールに任せるしか方法がない。
結局、その目的がなんであれ、私は彼らを戦場に赴かせる事しかできなかった。

私は、なんと無力なのか。

再び、私が筆を執ってこの手記と向き合える可能性は限りなく少ないだろう。
最後に、我々の弱さが生み出してしまった、全ての子供達に謝罪と、
この狂気の暴走を食い止めてくれるだろう希望への感謝を記して、筆を置こう。

                                                wolf worker


←BACK